詩入門講座(夜)
冨上 芳秀(詩人)
詩を書いて、詩誌などに発表するようになって、五十年以上の歳月が過ぎた。大阪文学学校で、チューターとして、皆様とともに詩を学ぶようになって、四十数年ほどになる。その間、たくさんの詩人たちを育てた。丸山薫賞、萩原朔太郎記念とをるもう賞、北陸現代詩人賞、中日詩人賞、中四国詩人賞、花賞、山之口貘賞、H氏賞は受賞には至らなかったが、何度も最終候補になった人も何人もいる。この人たちに伝えた詩の技術を、皆様にもわかってほしいのである。私は、これまで十六冊の詩集と二冊の詩に関する評論集などを出している。こうして蓄積してきた私の詩の技術や認識を皆様に伝えたい。私の詩的生活の最終段階が、この入門講座である。入門といっても、初歩の簡単なことを教えるというのではない。総合的に詩の全てを学んでいただくのである。
先ず、単語から始めよう。単語はどうすればユニークなインパクトを持つことができるのか。ひとつの単語によって状況を伝えるのも技術である。単語の次は文だ。句点によって完結する文。文によって詩を書く。今回は、この1行詩がカギになる。1行の詩が全世界を象徴する。あるいは、何百枚もの小説に匹敵する。
冒頭の1行を書かなければ、物語は始まらない。次々と湧いてくる言葉とイメージによって、躍動する人物が描かれ、壮大な長編小説になるのである。文学学校で小説を書こうとしている人も、詩を書いてもいいのである。いや、むしろ詩を書くことによって、小説家は巧くなる。詩の公開講座は、詩人を育てるためだけではなく、小説家に詩を書く機会を与えるためでもある。詩は小説を書く感性を磨く。それは小説家を育てることになる。公開講座を受けるだけで詩が書けるようになるだろうかと不安に思う人がいるかもしれない。大丈夫だ、入門講座で書いていけば、必ずいい詩が書けるようになれる。
島崎藤村は、詩を書くことから始めて、小説家として大成した。小野十三郎の弟子の富岡多恵子もこの系列にはいる。逆に、高見順は小説家から詩人になった。病気で、体力がなくなったが、詩ならば短時間集中すれば書けるからである。室生犀星は、詩も小説も並行して書き続けた。
毎日の生活の新鮮な感動を詩に書こう。生活詩はバカにならない。毎日の生活の積み重ねが人生なのである。小説を書こうとしている人は、自分の生活の詩を書いたらよい。それをまとめて1冊の詩集にしたらいい。私は、今も、メーリングリストで、毎日、詩を書き続けている。生活詩は私小説やエッセイになる。詩は何でもありであるから、生活詩以外、色々な実験をすればよい。奇想天外な詩は、幻想小説にも、ピカレスクロマンにもなる。エロチックな詩は、官能小説になる。言葉遊びの詩は、言葉の機能に対する認識を新たにする。自らの人生を振り返って短い詩を書いていけば、自分史になる。この入門講座は、頭を柔らかくする。通俗的な観念から心を解放して自由の精神を取り戻す目的もある。
講座は、皆様の提出した詩について、考えることが中心になるが、参加者全員が詩を創って遊ぶ楽しい機会も作りたい。それが皆様の実力を自然に向上させるのである。昔、公開講座で楽しく効果のあった詩の実験室を再開しようと思う。詩を通じて、新しい人生と出会いたい。現代詩の紹介、実験、、宿題を通じて、講座後の飲み会でも、1対1で向き合って、しみじみと話をしよう。詩は人の心を救い、励まし、生きる勇気を与えるものである。
スケジュール
- 6月2日(月)
- 【今月の詩人】
安西冬衛の詩
1行詩を創る方法。「解剖台上のミシンとコーモリ傘の偶然の出会い」というシュールレアリストの技法。
- 7月7日(月)
- 【今月の詩人】
北川冬彦の詩
安西冬衛とともに昭和初期に短詩運動を展開した詩人である。1行の詩を創ることによって、句会形式で実際講座内で楽しく詩を競い合い、詩の技術を磨く。
- 8月25日(月)
- 【今月の詩人】
杉山平一の詩
この詩人も短い詩を創る名人である。生活実感のあふれた詩で人生の機微を表現する。先ず、このような詩を書く技術を身に付け、講座内で楽しく詩を書くことを重ねてきたので、3回目のこの段階では詩を書く喜びを噛みしめることができると思う。
備考
⦿受講希望者はできるだけ課題に添った詩作品を講座日の9日前までに、大阪文学学校事務局 (〒542-0012 大阪市中央区谷町7-2-2-305)へ郵送または持参してください。作品は各自1篇とします。 タイトルと氏名は3行、本文は37行までとします。散文詩は1行30字詰め(原稿用紙だと貼り合わせればよい)、改行詩は1行最大40字まで。提出作品は全てコピーして講座の時に配布します。